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◇◇◇◇◇◇VOL-6「高周波誘導加熱の原理(その4)」◇◇◇◇◇◇
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今回は、「電流浸透深さ」と加熱のし易さについて考えます。
以前の号で説明しましたように、図6-1のように、帯状の金属、あるいは円柱状の金属の中で磁界が変化すると、
金属に生じた誘導電圧で、金属の外周に電流が流れ、誘導加熱されます。
磁束の変化で発生した電圧を誘導電圧と呼び、これによって、金属内を流れる電流を誘導電流、あるいは渦電流と呼びましたね。
図6-1「固体金属での電流の流れ方」
同一の材質、寸法の金属でも、電流浸透深さが小さいほど、良く金属が加熱されます。
これは、大きく、次の二つの理由によります。
(1)理由1「電流浸透深さが小さいと抵抗が大きくなる。」
誘導電流が流れる外周の抵抗は、Vol-4で説明しましたように、外周の長さLに比例し、電流の流れる断面積Sに反比例します。
従って、電流浸透深さδが小さいと、電流が流れる断面積が小さくなり、結果として、抵抗が大きくなります。
誘導加熱による熱量は、電流の二乗に抵抗を乗じたもので、抵抗が大きいほど、加熱量は大きくなります。
(実際は、δが小さくなると、電流も小さくなるが、その減少分は小さいことが多いので、上記のように考えられます。)
(2)理由2「電流浸透深さが大きくなりすぎると表裏の電流がキャンセルして電流が少なくなる。」
この理由の内容は、円柱状金属でも全く同様ですが、帯状金属の方が、図解しやすいので、以下、帯状金属を例にとって、説明します。
図6-1の帯状金属の誘導電流の流れ方を見ると、良く理解できますが、表裏(対辺)を流れる電流は、反対向きであり、それぞれが、前回vol-5に示す分布で流れています。
図6-2(a)に示すように、電流浸透深さδが、帯状金属の厚さより極めて小さい場合は、表裏の逆向きの電流は、お互いに関係なく、独立して流れます。
一方、図6-2(b)に示すように、電流浸透深さδが大きい場合は、表裏のそれぞれ逆向きの電流が重なる部分が出来、ここでお互いがキャンセルし、結果的に流れる電流が小さくなります。
結果的に、電流浸透深さが大きすぎると、流れる電流が減少した分、加熱量が小さくなります。
図6-2「電流浸透深さの大きさと電流分布」
この表裏電流のキャンセルされる状況を、グラフを使って説明します。
ここで、加熱される金属を、材質(炭素鋼)、温度(400℃)、板形状で厚さが0.4mmと設定しますと、
抵抗率(ρ)、比透磁率(μs)が設定できますので、前回Vol-5で示した電流浸透深さ(δ)が、周波数ごとに求まります。
図6-3は、周波数が1kHzの場合の、0.4mmの炭素鋼の厚さ方向で見た表の電流(破線)と裏の電流(二点鎖線)の分布です。
1kHzでは、電流浸透深さが大きすぎるため、表の電流が裏面まで半分以上流れます。
表面と裏面のそれぞれ逆向きの電流はキャンセルしますので、結果的に、太い実線で示す、差の電流が流れることになり、
本来なら、「1.0」であるべき表面の電流が、図のように「0.4」程度まで減少します。
図6-3「1kHzにおける板厚方向電流分布」
次に、図6-4の、周波数が10kHzの場合の、電流の分布を見てみます。
10kHzでも、まだ電流浸透深さが、板厚と同程度なので、表裏の電流は、キャンセルする部分がありますが、
キャンセル後の表面の電流が、約「0.75」と、だいぶ「1.0」に近づきました。
図6-4「10kHzにおける板厚方向電流分布」
最後に、図6-5の周波数が100kHzの場合の、電流の分布を見てみます。
100kHzでは、電流浸透深さが、板厚より十分小さいので、表裏の電流のキャンセルが、ほとんど無いことが良く分かります。
図6-5「100kHzにおける板厚方向電流分布」
このように、加熱される材質(抵抗率、比透磁率)と寸法によって、適正な加熱周波数を選定しないと、
有効な加熱が出来ない場合があり、誘導加熱装置の設計において、周波数の選定が最も重要となります。
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